(2024年4月2日作成)
当該ページの活用方法
・当該裁決の内容を理解する
・ご自身の税務調査に当てはまる、活用できそうなら、当該裁決内容及びあだ名を覚える
・ご自身の税務調査の場で活用させる
平成30年3月29日裁決のオリジナルのあだ名
平成30年調査開始後の自主修正申告だが事前通知後に自主修正申告申し出有りのため更正の予知は無かったとした及び納税者が相続開始前に引出した現金が相続財産に該当すると認識していたとは認められないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決(争点1更正の予知を中心に)
当該裁決のまとめ
前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。
図1:弊所オリジナル当該裁決概要図(争点1更正の予知について)
図2:弊所オリジナル当該裁決概要図(争点2隠ぺい仮装について)
裁決の内容、要約、編集
(1)事案の概要
本件は、被相続人J(以下「本件被相続人」という。)の相続人である審査請求人G(以下「請求人G」という。)、同E(以下「請求人E」という。)及び同H(以下「請求人H」といい、請求人G及び請求人Eと併せて「請求人ら」という。)が、相続開始の直前に本件被相続人名義の預金口座から引き出された金員について、その一部が相続税の課税価格に算入されていなかったとして修正申告書を提出したところ、原処分庁が、当該修正申告書の提出は更正があることを予知してなされたものであるとして重加算税の賦課決定処分をするとともに、当該金員のその余の部分についても相続財産に当たるなどとして相続税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分等をしたのに対して、請求人らが、当該修正申告書は更正を予知して提出したものではない上、請求人E及び請求人Gに隠ぺい又は仮装の行為はなく、また、相続により取得した土地については財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)24-4《広大地の評価》の定めにより評価すべきであるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)基礎事実
・請求人Eは、平成26年1月○日及び同月○日に、別表1の順号1から順号7までに記載の本件被相続人名義の各預貯金を各取引金融機関から引き出し、同月○日、当該引き出した金員の大半を、同表の順号8から順号10までに記載のとおり、請求人G名義及び請求人E名義の各普通預金口座へ預け入れた(以下、当該各普通預金口座のうち、同表の順号8及び順号9記載の請求人G名義の口座を「本件G口座」といい、同表の順号10記載の請求人E名義の口座を「本件E口座」という。また、当該順号1から順号10までに記載の各預貯金の取引を併せて「本件各預金取引」という。)。
・請求人らは、本件相続に係る相続税について、相続税の申告書に別表3の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した(以下「本件申告」といい、本件申告により提出された申告書を「本件申告書」という。)。
・なお、本件申告書には、本件被相続人名義のK信用金庫○○支店の普通預金口座、定期預金及び定期積金の各口座並びにL銀行○○支店の普通預金口座に係る各預金が相続財産として記載されていた。
・原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、請求人らの税務代理人であるM税理士(以下「本件税理士」という。)に対し、平成28年7月5日に本件相続に係る相続税の調査のための日程調整を依頼した上で、同月12日、通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》の規定に基づく事前通知により、同月20日に請求人Eの自宅において本件相続に係る相続税の実地の調査(以下「本件調査」という。)を行う旨を連絡した。
・本件税理士は、平成28年7月15日に本件調査担当職員に電話をし、本件申告の内容を見直したところ、預金が相続財産から漏れていたので修正申告をする旨を申し出た(以下、当該電話による修正申告の申出を「本件電話連絡」という。)。
・本件調査担当職員は、本件電話連絡を受けた後の平成28年7月15日午後、本件税理士に電話をし、当該電話は調査による質問検査である旨を宣言した上で、本件各預金取引について、その取引日、取引金融機関、口座名義及び各取引金額を伝え、修正申告を予定している内容が本件各預金取引のうち、別表1の順号8から順号10までに記載の各預金取引(以下、当該各預金取引に係る金額の合計10,032,719円を「本件金員」という。)に関するものであるか否かについて質問した(以下、当該電話による質問を「本件質問」という。)。
・これに対し、本件税理士は、同税理士が確認しているのは本件各預金取引のうちK信用金庫○○支店の取引のみであり、N銀行の取引は把握しておらず、L銀行○○支店の取引は確認中である旨の回答をした上、判明している預金について先に修正申告する旨を改めて申し出た。
・請求人らは、本件申告において、別表1の順号1及び順号4記載の各預金取引(順号4については、定期預金の元本相当額1,501,804円)の合計金額5,001,804円(以下「本件修正申告対象額」という。)に相当する財産が申告されていなかったとして、別表3の「修正申告」欄記載のとおりとする相続税の修正申告書(以下「本件修正申告書」といい、本件修正申告書による修正申告を「本件修正申告」という。)を平成28年7月19日に提出した。
・請求人Eは、平成28年7月20日、本件調査における本件調査担当職員の質問に対して、本件各預金取引は、本件被相続人が平成26年1月○日に倒れたので、入院費用や死亡時の費用の支出に備えて自ら行った旨申述したほか、本件金員は、「税務署さんに言われてみると、確かに本件被相続人の相続財産である。」旨申述した。
・原処分庁は、本件修正申告に対し、平成29年1月20日付で別表3の「賦課決定処分」欄のとおりの各賦課決定処分をした。
・次いで、原処分庁は、本件金員のうち本件修正申告対象額を除いた金員についても本件相続に係る相続財産であるとして、平成29年1月20日付で、別表3の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、上記トの各賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。
(2)争点
・争点1、本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるか否か
・争点2、請求人E及び請求人Gに通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったか否か
・争点3、省略
・争点4、省略
(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
明記はありませんが、最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動した判決における、外部からうかがい得る特段の行動を引用したと解されます。
(4)争点1、本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるか否かの判断
◎法令解釈
過少申告加算税の制度は、過少申告により納税義務に違反した者に加算税を課することによって、当初から適正に申告した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
一方、通則法第65条第5項は、過少申告がされた場合であっても、その後修正申告書の提出があり、その提出が「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」は、過少申告加算税を賦課しない旨規定しているところ、これは、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解される。
上記の通則法第65条第5項の趣旨からすると、修正申告書の提出が、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否かの判断に当たっては、調査の内容及び進捗状況、それに関する納税者の認識、修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
◎認定事実
●本件税理士は、平成28年7月7日、請求人Eに対し、同月13日に予定している本件調査に係る事前の打合せまでの間に、必要書類として、本件被相続人名義のK信用金庫○○支店及びL銀行○○支店の各預金口座の平成21年1月から平成26年3月までの間の各預金通帳を準備するよう求めたほか、本件被相続人名義の預金口座からの多額な出金に係る使途や請求人E及び請求人Gの預金口座への入金の有無の確認のため、上記期間に対応する請求人E名義及び請求人G名義の預金 通帳の有無を確認するよう求めた。
●請求人E及び本件税理士は、平成28年7月13日の打合せにおいて、本件申告の内容を検討し、別表1の順号1及び順号4の「出金額」欄記載の各金員に関し、本件修正申告対象額は本件相続に係る相続財産であり、本件申告から漏れていることを確認した。
●請求人らは、上記において確認した事実に基づき、本件修正申告対象額について本件修正申告をした。
◎あてはめ
●本件税理士は、本件調査担当職員から平成28年7月5日に本件調査に係る日程調整の依頼があったことを契機として、上記のとおり、請求人Eに対し、本件被相続人名義、請求人E名義及び請求人G名義の各預貯金通帳を準備させた上で打合せをすることとし、請求人Eは、上記のとおり、同月13日に行った本件税理士との打合せにおいて、同税理士とともに本件申告の内容の見直しを行い、本件修正申告対象額は本件相続に係る相続財産であり、本件申告から漏れていることを確認したものと認められる。そして、上記のとおり、本件税理士が、平成28年7月15日に本件調査担当職員へ電話をし、本件申告から預金が漏れていたため修正申告する旨を申し出ていることからすると、請求人Eは、同月13日の本件税理士との打合せを契機として、遅くとも本件電話連絡までの間に本件修正申告対象額について修正申告を行うことを決意し、本件電話連絡によって、その意思を本件税理士を介して本件調査担当職員に伝えたものと認められる。
●他方、本件調査担当職員は、本件電話連絡があった当日の午後に本件税理士へ電話をし、修正申告予定の預金に関する本件質問を行っているところ、本件質問は、本件電話連絡を受けた本件調査担当職員が、本件申告の内容や部内資料等を検討した結果に基づき、修正申告の申出があった預金は本件各預金取引に係る本件金員に関するものではないかと考えて、本件税理士に対し、修正申告を予定している預金の確認を行ったものと認められる。
そして、本件税理士は、本件調査担当職員の本件質問に対し、本件各預金取引のうちK信用金庫○○支店の取引のみ確認しており、判明した預金について先に修正申告する旨を改めて申し出た後、請求人らは、平成28年7月19日、本件修正申告対象額は本件相続に係る相続財産であるとする本件修正申告書を提出したものと認められる。
●請求人らが本件修正申告に至ったこれらの事情によれば、請求人Eは、平成28年7月13日に行った本件税理士との打合せを契機として、本件電話連絡までの間に、本件修正申告対象額について自発的に修正申告を行うことを決意し、本件税理士を介して本件調査担当職員にその意思を伝えた後、当該決意に基づき本件修正申告対象額に係る本件修正申告書を提出したものと認められ、請求人G及び請求人Hも、請求人E同様、当該打合せを契機として、本件修正申告対象額について自発的に修正申告を行うことを決意し、当該決意に基づき本件修正申告書を提出したものと認められる。
他方、本件調査担当職員は、本件電話連絡を受けた後、本件税理士に対して電話をし、本件質問を行っているものの、上記のとおり、本件質問の内容は、本件電話連絡で申出のあった修正申告予定の預金を確認したにすぎないものと認められる。
したがって、請求人らは、修正申告をしなければやがて更正されるであろうとの認識の下で本件修正申告を行ったものとは認められず、請求人らがした本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たると認められる。
●しかしながら、本件調査担当職員が、遅くとも平成28年7月13日までに本件各預金取引の事実を把握していたか否かはともかくとして、本件質問は、本件電話連絡で申出のあった修正申告予定の預金の確認をしたものと認められ、請求人らが本件金員でなく本件修正申告対象額についてのみ本件修正申告をしていることからすると、本件質問は本件金員が本件申告から漏れていることを指摘したものと認めることはできず、請求人らが、修正申告をしなければやがて更正されるであろうとの認識の下で本件修正申告を行ったものと認めることもできない。
(5)争点2、請求人E及び請求人Gに通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったか否か
・認定事実
◎請求人Eは、平成26年4月頃、当初申告代理人からの依頼を受け、本件遺産分割協議書及び本件申告書の作成資料として、本件被相続人に係る戸籍、死亡診断書、本件被相続人名義の預金口座の残高証明書などの書類を当初申告代理人に手交したものの、本件被相続人名義の預貯金に係る通帳は提示しなかった。
◎当初申告代理人は、本件遺産分割協議書及び本件申告書の作成に当たり、請求人Eに対し、本件被相続人名義の預貯金 に関し、通帳の提示や本件相続の開始前後の入出金についての説明を求めなかった。
◎本件金員のうち、本件E口座に入金された別表1の順号10記載の金員3,980,000円については、その大半が、入金後1か月半余りの間に、本件被相続人の葬式費用や法要等の支払に充てられた。
◎本件金員のうち、本件G口座に入金された別表1の順号8及び順号9記載の各金員の合計6,052,719円については、その一部が、本件被相続人の葬式費用や法要等の支払に充てられた。
◎請求人Eは、本件相続に関する申告手続について、請求人らを代表した。
・検討
◎請求人Eは、本件被相続人が倒れた日の翌日及び翌々日である平成26年1月○日及び同月○日、別表1の順号1から順号7までに記載の本件被相続人名義の各預貯金を引き出し、同月○日、その大半である本件金員を本件E口座及び本件G口座に預け入れていることからすると、原処分庁が主張するように、本件被相続人の死亡直前にこれらの口座に入金した本件金員が、本件相続に係る相続財産であると認識していたものと見る余地もないわけではない。
しかしながら、本件E口座及び本件G口座に入金された本件金員は、その大半及びその一部が本件被相続人の葬式費用や法要等の支払に充てられていることからすると、そもそも請求人Eは、本件調査時における申述のとおり、本件被相続人が倒れたことによる入院費用や死亡時の費用の支出に備えて本件各預金取引を行ったものと認めるのが相当である。そして、請求人Eが、本件調査の際、本件金員について、本件調査担当職員から指摘されて本件被相続人の相続財産であると認識した旨申述していることからすれば、請求人Eは、本件相続に係る相続税の申告の際、本件金員が本件相続に係る相続財産であると認識していなかったものとも評価し得る。
◎請求人Eは、当初申告代理人に対し、本件遺産分割協議書及び本件申告書の作成資料として、本件被相続人名義の預金口座の残高証明書は提示したものの、本件被相続人名義の預貯金に係る通帳は提示しなかったものと認められる。
しかしながら、当初申告代理人が、請求人Eに対し、本件被相続人名義の預貯金に係る通帳の提示や本件相続の開始前後の入出金について説明を求めなかったことからすると、請求人Eは、本件遺産分割協議書及び本件申告書の作成に当たり、当初申告代理人に提示した資料で事足りると認識していたものとも評価し得る。そして、請求人Eが、当初申告代理人から、本件被相続人名義の預貯金に係る通帳の提示を求められたのに対し、これを拒否ないし虚偽の説明をしたというのであればまだしも、本件調査に係る事前の打合せの際には、本件税理士の求めに応じて本件被相続人名義の預金通帳等を用意したというのであるから、当初申告代理人からの求めがあれば、本件被相続人名義の預金通帳等を提示していたと考えるのが自然である。そうすると、請求人Eは、当初申告代理人に対し、過少な相続税額が記載された本件申告書を作成させるため、本件被相続人名義の預貯金に係る通帳を提示せず、残高証明書のみを提示したものと評価することは困難であるといわざるを得ない。
◎以上検討したところによれば、請求人Eが、本件金員が本件相続に係る相続財産であることを十分認識していたと認めるのは困難である上、本件遺産分割協議書及び本件申告書の作成に当たり、当初申告代理人に対し、本件被相続人名義の預金口座の残高証明書のみを提示することにより、過少な相続税額が記載された本件申告書を作成させたものとも認められず、原処分庁の上記主張を根拠付ける証拠も見当たらない。
そうすると、請求人Eが、当初から過少に申告する意図を有していたとか、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとは認められず、その他、当審判所の調査によっても、請求人Eについて、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められない。
(6)結果
・本件修正申告に係る重加算税の各賦課処分決定について
更正の予知が無い時に該当するため、過少申告加算税賦課処分には該当しないため、過少申告加算税に代えて課す重加算税賦課処分を取り消す。
・本件修正申告対象額を除いた金員について、隠ぺい仮装は無かったことから重加算税賦課処分を取り消す。
当該裁決のさらなる要約
・本件は、相続発生前に引き出した金員約1,000万円のうち、自主修正申告で約500万円を修正したものの、残額の約500万円が申告漏れとなりました。
・国税不服審判所は、請求人が依頼した税理士が、事前通知後に自主修正申告を行う旨の申し出を電話で行い、その後の電話で調査官から質問検査の宣言を受けた後、調査日の前日までに自主修正申告をしたことについて、更正の予知は無かったとした。国税通則法においては、調査日の前日までという調査開始前に自主修正申告した場合は更正の予知が無かった申告と定められているはずであり、本件においては厳密には調査開始後に自主修正申告したことになるはずである、という点に疑問が残りました。
・国税不服審判所は、請求人は相続発生前に引き出した金員については相続財産に該当するという認識は無かった、と判断しました。
・国税不服審判所は、本件税理士の説明不足を指摘しました。
更正の予知について弊所独自の考察
●当該裁決の判断について重要論点
・当該裁決は、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解される、という国税通則法第65条第5項の趣旨に触れているという点。
・当該裁決の調査官は、平成28年7月20日の実地調査に先立って平成28年7月15日の午後の電話において質問検査である旨の宣言を行い、更正の予知があったものとして加算税を発生させようとした、つまり自主修正申告を無効化しようとしたのではないか、という点
・当該裁決は、時系列からすれば、調査官から電話による質問検査である旨の宣言を受けた後の自主修正申告であるため、調査開始後に該当し、更正の予知はあったと解するのが相当ではないかという疑問
・当該裁決は、請求人らは本件金員10,032,719円ではなく本件修正申告対象額である5,001,804円のみを自主修正申告をしているから、更正の予知には認められないとしたが、本件金員すべてを自主修正申告していた場合はどのような判断だろうかという疑問
・したがって調査通知が導入された現行制度において、調査通知後から更正の予知までに修正申告の申出をすれば重加算税を回避可能という理解ではなく申告書の提出が必要と理解すべきと解される、という点
となります。
●当該裁決は、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解される、という国税通則法第65条第5項の趣旨に触れているという点。
・平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について調査通知が導入される以前においては、事前通知から更正の予知発生(基本的には調査日の初日と解される)までに自主修正申告すれば、過少申告加算税(及び重加算税)を回避することが可能であり、問題視されていた。
・しかし、それは納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするという国税通則法第65条第5項の趣旨であると、国税不服審判所は述べています。
・調査通知が導入された現行制度においても、調査通知から更正の予知発生(基本的には調査日の初日と解される)までに自主修正申告すれば、重加算税を回避することが可能です。つまり、現行制度においても納税者の自発的な修正申告は奨励されるはず、と解されます。
●当該裁決の調査官は、平成28年7月20日の実地調査に先立って平成28年7月15日の午後の電話において質問検査である旨の宣言を行い、更正の予知があったものとして加算税を発生させようとした、つまり自主修正申告を無効化しようとしたのではないか、という点
上記のように、納税者の自発的な修正申告は奨励されるはずですが、当該裁決の調査官は、実地調査予定日である平成28年7月20日を平成28年7月15日の午後の電話に早めて、自主修正申告を無効化して少なくとも過少申告加算税を賦課し、さらには重加算税を賦課しようと試みたように解されます。
●当該裁決は、時系列からすれば、調査官から電話による質問検査である旨の宣言を受けた後の自主修正申告であるため、調査開始後に該当し、更正の予知はあったと解するのが相当ではないかという疑問
☆時系列
・平成28年7月5日、本件相続に係る相続税の調査のための日程調整を依頼。平成29年1月1日以後法定申告期限が到来する場合に行われる、現行制度の調査通知であると解される。当時、調査通知は存在しなかった。
・平成28年7月12日、事前通知。
・平成28年7月15日(午前か?)、本件税理士が預金が相続財産から漏れていたので修正申告をする旨を申し出た(本件電話連絡)
・平成28年7月15日午後、本件調査担当職員は、本件税理士に電話をし、当該電話は調査による質問検査である旨を宣言、修正申告を予定している内容が本件各預金取引のうち当該各預金取引に係る金額の合計10,032,719円(本件金員)に関するものであるか否かについて質問した(本件質問)。
・平成28年7月19日、合計金額5,001,804円(本件修正申告対象額)に相当する財産が申告されていなかったとして、相続税の修正申告書(「本件修正申告書」といい、本件修正申告書による修正申告を「本件修正申告」という。)を提出
・平成28年7月20日、調査初日
☆電話での質問検査権の宣言→自主修正申告
つまり上記の時系列であれば、電話での質問検査権の宣言=調査開始後、であり自主修正申告は調査開始後に提出したことになります。国税通則法における重加算税を賦課しない要件は、修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、適用しない旨規定しており、つまり修正申告書の提出が必要であり、当該裁決は、電話での質問検査権の宣言(調査開始)までには修正申告を行う旨の申出のみであり提出はしておらず提出は調査開始後、となります。しかし、当該裁決において国税不服審判所は、当該自主修正申告については更正の予知はなかったとしました。この点は国税通則法の規定から外れているように解されます。
●当該裁決は、請求人らは本件金員10,032,719円ではなく本件修正申告対象額である5,001,804円のみを自主修正申告をしているから、更正の予知には認められないとしたが、本件金員すべてを自主修正申告していた場合はどのような判断だろうかという疑問
当該裁決においてもし仮に本件修正申告対象金額が5,001,804円ではなく、まさに本件金員10,032,719円を自主修正申告していたとしたら、どのような判断であったかは法的には明らかではありません。
●したがって調査通知が導入された現行制度において、調査通知後から更正の予知までに修正申告の申出をすれば重加算税を回避可能という理解ではなく申告書の提出が必要と理解すべきと解される、という点
調査通知が導入された現行制度においても、重加算税を回避するための要件としては、調査通知後から更正の予知までに自主修正申告書を提出することであり、修正申告の「申出だけ」では要件を満たさないと解されます。
●国税通則法を厳格に解釈した場合において当該裁決における請求人及び本件税理士がすべきだったことは、平成28年7月15日午後の電話において質問検査である旨の宣言を拒否することをすべきだったのではないだろうか、という点
上記から、当該裁決における請求人及び本件税理士がすべきだったことは、調査官から電話において調査を開始する旨の申出を拒否することだったと解されます。もし仮に拒否していたとすれば、調査日初日は平成28年7月20日となり、自主修正申告は平成28年7月19日提出であるため、国税通則法に規定する要件を満たしていたと解されます。
当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
事前通知後かつ調査開始前に自主修正申告を行う旨の「申出」をすれば、自主修正申告が電話での調査開始後であっても更正の予知はなかったと判断され重加算税賦課を回避できる可能性がありますが、国税通則法の規定によればそれは誤りであり調査開始前に自主修正申告書を提出しなければ重加算税は回避できないと解されます(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)