(2023年9月6日作成)

一人暮らしの親を老人ホーム入居前に、子がまず一度自分の家に招き入れるという優しさがあだとなる現在の税法であることにご注意ください

老人ホームと小規模宅地の特例の関係性については、ネット記事や様々な書籍で解説されております。しかし、あまり全面的にアナウンスされていない盲点のような論点についてお伝えすることが有意義であると思いますので、まずは当該論点について解説いたします。

結論を申し上げますと

・一人暮らしの親(将来の被相続人)→一人暮らしが厳しくなり老人ホームへ入居→小規模宅地等の特例適用可能
・一人暮らしの親(将来の被相続人)→一人暮らしが厳しくなり、子がまずは引き取り、子の家に住み世話になる→子が親を介護することが厳しくなり老人ホームへ入居→被相続人の老人ホーム入居前直前の居所は子の家となり小規模宅地等の特例適用不可

となります。

例えば、妻に先立たれた男性がおり、何年も一人暮らししておりました。その男性の子は独立して他都道府県に住んでいます。その男性が高齢となり自活することも困難となってきました。そこで子はその男性、つまり父親を老人ホームへの入居を進めたのですが、本人が乗り気ではありませんでした。そこで「最後の親孝行だ」ということで、子は父親を自身の家に招き入れてしばらくお世話をしておりました。しかしその後、いよいよ介護のプロに任せなければ介護が厳しいくなったことを受けて、父親は老人ホームで暮らすこととなりました。そして老人ホームで亡くなられ、家なき子に該当する子が父親が一人暮らししていた土地家屋、つまりその子の実家でもある家を相続しました。しかし、今回の場合、小規模宅地等の特例を受けることができないとなります。

その根拠は?

国税庁が発行する手引きは読みにくいため、読みやすいよう編集して解説いたします。

小規模宅地の特例における居住用宅地等の特例の要件は

被相続人の居住の用に供されていた宅地等を一定の要件を満たす親族が相続した場合適用される

となります。

この、被相続人の居住の用に供されていた宅地等、ですがかつてまだ老人ホーム等への入居が一般的ではなく、自宅で家族が介護することが当然とされていた時代においては、相続発生時点で老人ホームに住んでいた場合にはもともと住んでいた家は、被相続人の居住の用に供されていない、とされていました。しかし、時代錯誤であるとの考え方から税法が改正され、相続発生時に老人ホームに入居していた場合でも小規模宅地等の特例が適用可能となる文言が改正されました。

・「被相続人の居住の用」には、被相続人の居住の用に供されていた宅地等が、養護老人ホームへの入所など被相続人が居住の用に供することができない一定の事由(省略)により相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合(省略)におけるその事由により居住の用に供されなくなる直前の被相続人の居住の用を含みます。

当該規定によって、

被相続人の家→老人ホームへ入居→相続発生→被相続人の家の小規模宅地等の特例適用あり

ということになりました。

しかし、当該規定によって

被相続人の家→子などの親族の家に居住→老人ホームへ入居→相続発生→被相続人の家の小規模宅地等の特例適用無し

というケースは対象外となる結果となりました。

なぜなら、この場合の被相続人の老人ホームの入居という事由により居住の用に供されなくなった直前の被相続人の居所は、子などの親族の家だからです。

当該論点が弊所が最もお伝えしたい論点となります。

下記においては一般的な老人ホーム入居と小規模宅地等の特例についての解説を記述いたします。

平成25年12月31日以前までは老人ホーム入居の場合の小規模宅地等の特例は例外的に認められる扱いでした

平成25年12月31日以前に発生した相続については、老人ホームは、被相続人が入所するために被相続人またはその親族によって所有権が取得され、あるいは終身利用権が取得されたものではないこと、などの要件のもと例外的に認められる取り扱いでした。

平成25年度の税制改正により、老人ホームに入居等したことに伴う小規模宅地等の特例の取扱いについて租税特別措置法に明文化され、平成26年1月1日以後の相続については取り扱いが明確化されました。

平成26年1月1日以後の老人ホーム入居と小規模宅地等の特例について

国税庁の質疑応答がわかりやすいと思われます。

【照会要旨】

被相続人は、介護保険法に規定する要介護認定を受け、居住していた建物を離れて特別養護老人ホーム(老人福祉法第20条の5)に入所しましたが、一度も退所することなく亡くなりました。
被相続人が特別養護老人ホームへの入所前まで居住していた建物は、相続の開始の直前まで空家となっていましたが、この建物の敷地は、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当しますか。

【回答要旨】

照会のケースにおける、被相続人が所有していた建物の敷地は、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当することになります。

(理由)
平成25年度の税制改正において、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等の場合であっても、1被相続人が、相続の開始の直前において介護保険法等に規定する要介護認定等を受けていたこと及び2その被相続人が老人福祉法等に規定する特別養護老人ホーム等(以下「老人ホーム等」といいます。)に入居又は入所(以下「入居等」といいます。)していたことという要件を満たすときには、その被相続人により老人ホーム等に入居等をする直前まで居住の用に供されていた宅地等(その被相続人の特別養護老人ホーム等に入居等後に、事業の用又は新たに被相続人等(被相続人又はその被相続人と生計を一にしていた親族をいいます。以下同じです。)以外の者の居住の用に供されている場合を除きます。)については、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に当たることとされました。
なお、この改正後の規定は、平成26年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する場合について適用されます。

(注)被相続人が介護保険法等に規定する要介護認定等を受けていたかどうかは、その被相続人が、その被相続人の相続の開始の直前において要介護認定等を受けていたかにより判定します。
したがって、老人ホーム等に入居等をする時点において要介護認定等を受けていない場合であっても、その被相続人が相続の開始の直前において要介護認定等を受けていれば、老人ホーム等に入居等をする直前まで被相続人の居住の用に供されていた建物の敷地は、相続の開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当することになります。

【関係法令通達】

租税特別措置法第69条の4第1項
租税特別措置法施行令第40条の2第2項、第3項
租税特別措置法通達69の4-7の3

必要添付書類

・被相続人の戸籍の附票の写し
・要支援認定を受けていたこと明らかにする書類
・施設への入所時における契約書の写し

これらが必要となります。

まとめ

・小規模宅地等の判定における被相続人の要件について、被相続人が老人ホームに入居した場合でも、基本的には適用可能と考えてよいでしょう。
・しかし、親族のやさしさにより、老人ホーム入居前に一時的に引き取る、預かる場合、その優しさが仇となる悲しい、理不尽な税制であるためお気を付けください。