(2023年9月14日作成)

不動産の分割方法は下記の選択肢が存在します。

・現物分割
・換価分割
・代償分割
・共有分割

今回は、代償分割について解説いたします。

結論

代償分割の根拠について

・国税庁、タックスアンサー(よくある税の質問)、No.4173・代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算、において、対象税目が相続税、代償分割の定義、計算方法、が記述されています。
・上記タックスアンサーの根拠として、国税通則法11の2-9・(代償分割が行われた場合の課税価格の計算)、が存在します。
・さらに上記タックスアンサーの根拠として、国税通則法11の2-10・(代償財産の価額)、が存在します。
・代償分割で贈与税は発生しないのかという疑問についての回答は国税庁の解説記述は無いものの、専門書やネット記事の解説によれば遺言書、遺産分割協議書に代償分割の旨を記述すれば贈与税は発生しないとされており、そのように解して問題ないと思われます。
・代償分割の旨を記述した遺言書、遺産分割協議書の書き方の解説については、国税庁の解説記述は無いものの、専門書やネット記事を参考に作成すれば問題ないと解されます。
・代償分割は実家等の残したい不動産を残せる方法かつ相続人間で平等を保つことができる方法とされています。
・実家を残したい場合等に遺言書において代償分割を指定することは有意義と思われます。

下記で詳細を見ます。

代償分割の根拠等

国税庁、タックスアンサー(よくある税の質問)、No.4173・代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算より

概要

代償分割とは、遺産の分割に当たって共同相続人などのうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の共同相続人などに対して債務を負担するもので現物分割が困難な場合に行われる方法です。

1 この場合の相続税の課税価格の計算は、次のとおりとなります。
(1) 代償財産を交付した人の課税価格は、相続または遺贈により取得した現物の財産の価額から交付した代償財産の価額を控除した金額
(2) 代償財産の交付を受けた人の課税価格は、相続または遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額の合計額

2 この場合の代償財産の価額は、代償分割の対象となった財産を現物で取得した人が他の共同相続人などに対して負担した債務の額の相続開始の時における金額になります。
ただし、代償財産の価額については、次の場合には、それぞれ次のとおりとなります。
(1) 代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、代償債務の額がその財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されている場合には、その代償債務の額に、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における相続税評価額が代償分割の対象となった財産の代償分割の時において通常取引されると認められる価額に占める割合を掛けて求めた価額となります。
(2) 共同相続人および包括受遺者の全員の協議に基づいて、(1)で説明した方法に準じた方法または他の合理的と認められる方法により代償財産の額を計算して申告する場合には、その申告した額によることが認められます。

具体例

上記1および2に関する事例については、次のとおりです。
<相続人甲が、相続により土地(相続税評価額4,000万円、代償分割時の時価5,000万円)を取得する代わりに、相続人乙に対し現金2,000万円を支払った場合>
(1) 甲の課税価格
4,000万円 - 2,000万円 = 2,000万円
(2) 乙の課税価格
2,000万円

ただし、代償財産(現金2,000万円)の額が、相続財産である土地の代償分割時の時価5,000万円を基に決定された場合には、甲および乙の課税価格はそれぞれ以下のように計算します。
(1) 甲の課税価格
4,000万円 - {2,000万円 × (4,000万円 ÷ 5,000万円)} = 2,400万円
(2) 乙の課税価格
2,000万円 × (4,000万円 ÷ 5,000万円) = 1,600万円

国税通則法11の2-9(代償分割が行われた場合の課税価格の計算)

11の2-9 代償分割の方法により相続財産の全部又は一部の分割が行われた場合における法第11条の2第1項又は第2項の規定による相続税の課税価格の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによるものとする。(平4課資2-231追加)

  1. (1) 代償財産の交付を受けた者 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額
  2. (2) 代償財産の交付をした者 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額

(注) 「代償分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいうのであるから留意する。

国税通則法11の2-10(代償財産の価額)

11の2-10 11の2-9の(1)及び(2)の代償財産の価額は、代償分割の対象となった財産を現物で取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して負担した債務(以下「代償債務」という。)の額の相続開始の時における金額によるものとする。
ただし、次に掲げる場合に該当するときは、当該代償財産の価額はそれぞれ次に掲げるところによるものとする。(平4課資2-231追加、平8課資2-116、平19課資2-5、課審6-3改正)

  1. (1) 共同相続人及び包括受遺者の全員の協議に基づいて代償財産の額を次の(2)に掲げる算式に準じて又は合理的と認められる方法によって計算して申告があった場合 当該申告があった金額
  2. (2) (1)以外の場合で、代償債務の額が、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているとき 次の算式により計算した金額
    A×(C÷B)

(注) 算式中の符号は、次のとおりである。

  • Aは、代償債務の額
  • Bは、代償債務の額の決定の基となった代償分割の対象となった財産の代償分割の時における価額
  • Cは、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における価額(評価基本通達の定めにより評価した価額をいう。)

代償分割の計算方法の解説

1つめの計算方法は、不動産の相続税評価額の半分を代償して平等と納得した場合の計算方式(稀でしょう)

相続人甲が、相続により土地(相続税評価額4,000万円)を相続したので、相続人乙に対して相続税評価額4,000万円の半分を代償したため、相続人乙は2,000万円の現金を受け取って納得した計算例となります。従って、

(1) 甲の課税価格
4,000万円 - 2,000万円 = 2,000万円
(2) 乙の課税価格
2,000万円

と計算されております。しかし、当該土地の代償分割時の時価は5,000万円です。通常であれば、相続人乙は当該時価の半分の2,500万円の代償金の現金を取得して納得すると考えられます。

更に極端な例で言えば、相続税評価額が2,000万円だけれど、不動産の相場を考慮すれば代償分割時の時価は1億円であるようなマンションも存在すると思います。この場合、1,000万円を代償すれば相手は納得するでしょうか?いえ、1億円の半額である5,000万円を要求するでしょう。

国税庁の2つ目の計算例ですが、調整計算の例ですが、土地の代償分割時の時価5,000万円を基に決定された代償金額が2,000万円という前提がよくわからないこととなっております。ここは代償金2,500万円と決定されるのではないでしょうか。

以下においては具体例の数字を変更して解説します。

2つめの計算方法は、不動産の代償分割時の市場における不動産評価額の半分を代償して平等と納得した場合の計算方式(このケースが多いでしょう)

相続人甲が、相続により土地(代償分割時の時価5,000万円)を相続したので、相続人乙に対して代償分割時の時価5,000万円の半分を代償したため、相続人乙は2,500万円の現金を受け取って納得した計算例となります。従って、

代償財産(現金2,500万円)の額が、相続財産である土地の代償分割時の時価5,000万円を基に決定された場合には、甲および乙の課税価格はそれぞれ以下のように計算します。
(1) 甲の課税価格
4,000万円 - {2,500万円 × (4,000万円 ÷ 5,000万円)} = 2,000万円
(2) 乙の課税価格
2,500万円 × (4,000万円 ÷ 5,000万円) = 2,000万円
となりました。

代償分割で贈与税は発生しないのかという論点

上記の通り、国税庁が代償分割について、正式に明示しているものは、タックスアンサー、国税通則法11の2-9、国税通則法11の2-10、となります。代償分割により贈与税は発生しないという明確な記述はないものの、当該解説記述の内容や、その他専門書、実務書等で税理士等が解説している内容を踏まえると、遺言書、遺産分割協議書で代償分割の旨を明記することにより贈与税の課税関係は発生しないと解するのが相当と思われます。

遺言書に代償分割を明記する書き方の参考(あくまで参考)

まず、有効な遺言書作成のために、弁護士、司法書士への相談をお願いいたします。国税庁において相続税法上有効な代償分割の旨を記述した遺言書の書き方についての言及は存在しませんが、参考として下記に記述します。

第〇条 遺言者は、遺言者の有する以下の不動産を、長男Aに相続させる。

Aに相続させる不動産を住所、家屋番号等を正確に表示

第〇条 長男Aは前条記載の相続に対する負担として、長女Bに○○円、次男Cへ○○万円をそれぞれ代償金として支払う。

このように記述すればよい、とされております。

遺産分割協議書に代償分割を明記する書き方の参考

国税庁において相続税法上有効な代償分割の旨を記述した遺産分割協議書の書き方についての言及は存在しませんが、参考として下記に記述します。

1、 相続人Aは以下の財産を相続する。

省略

2.相続人Aは、第一項に記載の遺産を取得する代償として、相続人Bに対し、金○○万円を○○年○○月○○日までに支払うものとする。

このように記述すればよいとされております。

代償分割は実家等の残したい不動産を残せる方法かつ相続人間で平等を保つことができる方法とされています

被相続人の財産が実家の土地家屋のみであり、相続人A、相続人Bがいるとします。この場合はどのように分割すればよいのでしょうか?

現物分割では、土地と家屋をそれぞれに相続させることになりますが、平等を保つことはできないでしょう。
換価分割では、実家を売却して換金して相続させることになり、平等は保てますが実家が無くなります。
代償分割は、実家を残しつつ、金額としては平等保てるように解されます。
共有分割では、実家が共有となり、根本的な解決とはなっておりません。

以上より、一概には言えませんが、代償分割は選択の優先順位が高い方法と解されます。

実家を残したい場合等に遺言書において代償分割を指定することは有意義と思われます

前提として

・被相続人は実家を残したいという考えがある
・被相続人は相続人が揉めずに遺産分割してほしいという考えがある
・遺言書がない

という場合には、相続人が代償分割という方法にたどり着かなければならず、難易度が高いです。被相続人が遺言書で代償分割の旨を明記していれば、相続人は遺言書に従うのみとなります。

まとめ

・代償分割は相続税法上認められた方法です。
・代償分割による贈与税は、手順を踏めば発生しません。
・代償分割は比較的平等を保てる分割方法と解されます。
・被相続人が相続人に代償分割を選択してほしいのであれば遺言書を作成しましょう。