(2024年4月12日作成)

結論

・国税不服審判所が隠蔽(いんぺい)仮装行為に伴う重加算税賦課決定の妥当性を判断するための基準は、申告漏れ財産の認識の有無、秘匿の有無・失念しやすさの有無、調査時の協力具合の3基準、により判断するように解されます。
・根拠は、国税不服審判所隠ぺい仮装を認めなかった公表相続税裁決を分析すると、分別不能のものも存在したが、3基準すべてを検討した裁決、2基準のみを検討した裁決など、いずれかに当てはまっておりました。
・以上から相続税の重加算税を回避するための納税者の主張の優先順位は下記と解されます。
◎申告漏れ財産を認識していなかったこと
◎認識していたとしても、秘匿はしていないこと又はうっかり計上を失念したこと
◎認識しており、失念しやすいとは考えにくかったが、しかし調査には協力的であったこと
・しかし、納税者の主張がすべて認められてしまったら、重加算制度そのものが成り立ちません。
・したがって、納税者の隠蔽(いんぺい)仮装行為の否定、重加算税の否定が認められるかどうかは、処分庁、国税不服審判所、裁判所、の判断にゆだねられることになります。

下記で詳細を見ます。

国税不服審判所隠ぺい仮装を認めなかった公表相続税裁決から導いた弊所独自の重加算税判定表

国税不服審判所隠ぺい仮装を認めなかった公表相続税裁決から導いた弊所独自の重加算税判定表納税者の申告漏れ財産の存在の認識の有無認識無し隠蔽(いんぺい)仮装無しにより重加算税賦課無し
認識有り・申告漏れ財産の税理士等への秘匿の有無
・又は申告漏れ財産の失念しやすさ、誤解しやすさ、誤認しやすさの有無
・秘匿無し
・しやすや有り
隠蔽(いんぺい)仮装無しにより重加算税賦課無し
・秘匿有り
・しやすや無し
税務調査時において納税者が協力的かどうか協力的隠蔽(いんぺい)仮装無しにより重加算税賦課無し
非協力的隠蔽(いんぺい)仮装有りにより重加算税賦課有り

弊所が国税不服審判所隠ぺい仮装を認めなかった公表相続税裁決より独自に導いた相続税重加算税判定基準による裁決の分別

弊所が国税不服審判所隠ぺい仮装を認めなかった公表相続税裁決より独自に導いた相続税重加算税判定基準による裁決の分別
認識の有無の検討→税理士等への秘匿又は失念・誤解・誤認の検討→調査時の態度の検討、の3つすべて8
認識の有無の検討→税理士等への秘匿又は失念・誤解・誤認の検討、の2つのみ1
認識の有無の検討、の1つのみ1
税理士等への秘匿又は失念・誤解・誤認の検討、の1つのみ2
調査時の態度の検討、の1つのみ1
認識の有無の検討→調査時の態度の検討、の2つのみ1
税理士等への秘匿又は失念・誤解・誤認の検討→調査時の態度の検討、の2つのみ2
分別不能1
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認識の有無の検討→税理士等への秘匿又は失念・誤解・誤認の検討→調査時の態度の検討、の3つすべてを検討した裁決一覧

平成23年相続発生前の現金出金及び農協口座については納税者の認識及びその後の秘匿行為が存在したとして隠ぺい仮装を認め出資金については認識が存在しなかったとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決
平成28年相続税無申告であり財産を認識しており調査時に証拠隠滅行為が存在しても調査時にすぐに改めたとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決
平成30年納税者が認識しておりかつ失念しやすい相続財産ではなかったとしても調査時に協力的であり意図的であったとは推認できないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決
平成30年不十分な内容の当初申告後に財産債務の収集を完了させたが修正申告書の提出が調査開始までに間に合わなかったとしても隠ぺい仮装を認めなかった裁決
令和3年納税者が認識していた共済金の申告漏れについて税理士の説明確認検討不足の可能性及び秘匿したまでとは言えないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決
令和3年死亡保険金の申告漏れの原因について納税者の多忙や失念の可能性を否定できないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決
令和4年相続人が預貯金の存在を認識していたと推認されたが申告漏れ預貯金の金額が相対的に少額であり調査時に申告漏れを自ら申し出たことについて隠ぺい仮装を認めなかった裁決
令和4年被相続人の株式や名義株式を記載したノートの未提出による当初申告財産漏れについて隠ぺい仮装を認めなかった裁決

認識の有無の検討→税理士等への秘匿又は失念・誤解・誤認の検討、の2つのみを検討した裁決

平成30年納税者が認識していた満期共済金及び出資金が申告漏れであっても隠ぺい仮装を認めなかった裁決

認識の有無の検討、の1つのみを検討した裁決

平成30年不十分な内容の当初申告後に財産債務の収集を完了させたが修正申告書の提出が調査開始までに間に合わなかったとしても隠ぺい仮装を認めなかった裁決

税理士等への秘匿又は失念・誤解・誤認の検討、の1つのみを検討した裁決

令和3年1億円の保険金申告漏れの原因は保険担当者の財産にならない発言を誤解したからであるとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決
令和3年税理士からの質問を誤解したことによる共済は掛捨てに移行している発言は虚偽の回答であるとまでは言えないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決

調査時の態度の検討、の1つのみを検討した裁決

平成28年保険金の申告漏れについて意図的ではなく調査に協力的であったとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決

認識の有無の検討→調査時の態度の検討、の2つのみを検討した裁決

平成28年納税者である相続人は申告漏れとなった保険金の存在を認識しておらず正確な申告を行う姿勢を見せたとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決

税理士等への秘匿又は失念・誤解・誤認の検討→調査時の態度の検討、の2つのみを検討した裁決

平成28年相続税無申告でありお尋ね回答書に回答漏れの財産が存在しても調査時に指摘を認めたとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決
令和元年法定されているものではないお尋ね文書の回答に事実と異なる記載が存在しても隠ぺい仮装を認めなかった裁決

分別不能の裁決

令和3年質問応答記録書の内容をだけでは借入金の存在を否定できないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決

国税不服審判所の判断の順番は概ね、認識、秘匿・失念、調査時の態度、の順番であるため、納税者も当該順番で主張していくことになるでしょう

繰り返しとなりますが、国税不服審判所が相続税の隠蔽(いんぺい)仮装行為を認定する順番については、認識→秘匿・失念→調査時の態度ということになります。そうすると納税者は当該順番で主張、否定していくことになると解されます。

・申告漏れとなった財産はそもそもその存在を認識していなかったと主張→存在を認識していないものは申告計上できるわけないため、その場合は隠蔽(いんぺい)仮装行為は存在せずそこで検討終了を目指す、というロジックとなります。

・申告漏れとなった財産を認識はしていたが、税理士等に秘匿していないと主張、うっかりミスであり意図的ではない→うっかりミスの場合は隠蔽(いんぺい)仮装行為は存在せずそこで検討終了を目指す、というロジックとなります。

・申告漏れとなった財産を認識はしており、失念しやすい財産ではなかったが、税務調査においてすぐ認め調査に協力的であったと主張→調査においてはじめて気がついて素直に認めたため隠蔽(いんぺい)仮装行為は存在せず検討終了を目指す、というロジックとなります。

納税者が相続税の隠蔽(いんぺい)仮装行為の存在を否定すれば認められるのか?

・では上記のように納税者が相続税の税務調査において隠蔽(いんぺい)仮装行為を否定すれば重加算税をすべて回避できるのでしょうか?
答えはNOとなります。

こちらのページをご参考ください。

うっかりミスと言張れば重加算税賦課は回避できる? – 税務調査の重加算税回避無申告解消専門全国対応京都の税理士 (tt-web.sakuraweb.com)

税理士鴻秀明の隠ぺい仮装の拡大解釈や総合勘案による重加算税賦課はすべきでないという意見 – 税務調査の重加算税回避無申告解消専門全国対応京都の税理士 (tt-web.sakuraweb.com)

現在の日本の税法においては、税務署を含めた処分庁、国税不服審判所、つまり国側に、「最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動をした判決」に基づく「過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動をしたかどうかという総合勘案による重加算税賦課が認められている」ということになります。

つまり「結局総合的に見て、隠蔽(いんぺい)仮装行為の存在の有無を検討、判断することになる」となります。

まとめ

国税不服審判所が相続税の隠蔽(いんぺい)仮装行為を判断する基準及び順番は、認識→秘匿・失念→調査時の態度、と考えてよさそうです。